ずっと、メルカリをやりたいと思っていた。
友人からは「秒でできるよ」と背中を押され、自分でも「うん、いつかやる」と返事をして。けれど、その「いつか」は、待てど暮らせどやってこない。
不運か幸運か、私はうつ病で会社を休むことになり、療養期間に突入した。つまり、「忙しくて時間が取れない」という魔法の言い訳が、完全に封じられたわけである。時間は、ある。いや、時間しかない。
だというのに、私はやらなかった。
療養1ヶ月目、やらない。
療養2ヶ月目、まだやらない。
もはや、これは才能ではないか。「やらない」ことへの、異常な継続力。
そして3ヶ月目。ようやく重い腰を上げた。
出品してみたら、一発目で本が売れた。驚くほど、早い。
……え、今までの2ヶ月間、私は一体何をしていたのか。
その時、ふと昔の職場の光景が蘇った。
私の会社では、毎月必ず見なければならない動画が何本かあった。総務からのリマインドも来るし、早めに見るに越したことはない。ある月の半ば、部長が朝礼で「ちゃんと見ておいてね」と言った。
その瞬間、一人の同僚が噛みついた。
「今こんなに忙しいのに、いつ見るんですか!」
会議室が、しーんとなった。
もともとそういう性格の子ではあったけど、さすがにあの静寂は重かった。
だがその日の午後、その子はたまたま暇になったらしく、鼻歌交じりで動画を見ていた。
部長も「え、あんだけ切れてたのに」みたいな顔をしていた。
そしてぽそっと言った。
「時間を理由にやらない人は、時間があってもやらないんだよ。結局、効率的にやるかどうかの問題だから」
私はその時、アハハと笑っていた。そうですよね、と。完全に他人事として。
今になって、その言葉がじわじわと効いてくる。
「私、やる時はやるタイプなんで」という顔をして生きてきたが、実は「やらない側の人間」だった。理由はわかっている。ただただ、面倒だった。それだけだ。
一度やってしまえば、車輪は回り始める。
3ヶ月かけてようやく気づいたことは、あまりにも遅すぎた。
でも、一生気づかないよりはマシだと思うことにする。
あの部長は今、何をしているんだろうか。
【ついでに気づいたこと】
・メルカリは本当に秒でできる。友達が言った通りだった。
・「時間を理由にやらない人は、時間があってもやらない」はわりと本当かもしれない。
・一発目で売れると車輪が回り始める。とりあえず一個出品してみるのがコツらしい。



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