前回の記事で、産業医から課題図書を出された話を書いた。
私は昔から、宿題はさっさと終わらせてしまいたいタイプだった。
「まだ宿題がある」と思いながら過ごすより、「もう終わった」と思って過ごしたい。
その性格は、52歳になっても変わっていなかったらしい。
産業医面談は金曜日。
翌日には、もう本屋にいた。
急いで買いに来たくせに、棚の前で30分は吟味していた。
フライングしたくせに、審査だけは厳正だった。
漫画で分かる系はしっくりこず、最終的に一冊に絞り込んだ。
スタートだけは早く、選ぶのは遅い。安定のスタイルである。
これで一安心。
……と思っていた。
ところが月曜日。
復職審査委員会に提出する書類一式が届いた。
委員会という響きだけで、なんだか裁かれる気分になる。
その中に、「おすすめ図書一覧」という、本がずらりと並んだリストが入っていた。
「えっ、そんなのあったの?」
知っていたら待った。
……たぶん。
いや、私のことだから、「待ちきれない」と言って結局買っていた気もする。
フライング癖は、50代になっても健在らしい。
ちなみに私が買ったのは、
『人生が自動的にうまくいくレッスン 仕事・人間関係がラクになる認知行動療法のエッセンス』
精神科医 藤野智哉さんの本だった。
おすすめ図書には載っていなかった。
2026年5月に出版された本なので、その時点ではまだ一覧に反映されていなかったのかもしれない。
せっかく買ったので、そのまま読み進めることにした。
読み進めていると、「なるほど」と思うところがいくつもあった。
その中で、思わず接客業時代を思い出した場面がある。
それは、
「相手の言葉を全部受け取らなくていい」
という考え方だった。
全部をまともに受け取るから、ダメージも全部食らう。
受け取る量を、自分で調整していいらしい。
そんな調整弁があるなら、活用しない手はない。
本を読みながら、
「あれ?」
と思った。
この感覚、どこかで聞いたことがある。
接客業時代の研修だった。
お客様から強い口調で言われた時は、一度、感情のスイッチを切る。
パチン。
心の中でブレーカーを落とす、あの動作である。
落としてしまえば、あとは静かなものだ。
静かな頭で、話を聞く。それが接客業の奥義だった。
すっかり忘れていたことを、本が思い出させてくれた。
私は勝手に、接客だけの技術だと思っていた。
他でも使っていいらしい。
それは、ちょっとした発見だった。
もっとも、私にあの技が効くのは、接客という前提があったからだった。
不意打ちで強くぶつけられると、今でも普通に固まる。
その場では、
「そうですね。」
と話が終わる。
そして家に帰って、お風呂に入っていたり、ぼんやりしていたりすると、
「あの時、ああ言えばよかった。」
と、一人反省会が始まる。
ずっと、語彙力や瞬発力が足りないのだと思っていた。
でも最近、本だったかインスタだったかで、こんな話を知った。
とっさに言い返せる人は、責め言葉のすぐに出せる在庫が豊富らしい。
私の在庫は、たぶん万年欠品。
欠品の理由が「言葉を選んでいるから」なら、悪くない欠品である。
課題図書は、まさかのフライングで始まった。
フライングにしては、悪くない着地だった。
【ついでに気づいたこと】
・宿題を早めに終わらせたい性格は、52歳になっても変わらなかった。
・仕事で教わったことが、別の本を読んでつながることがあるらしい。
・その場で言い返せないことを短所だと思っていたけれど、少しだけ見方が変わった。



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