接客業で身につけた、自分の心を守る方法

前回の記事で、「まあ、いいか」という私なりの魔法の言葉を書いた。
書きながら、ふと思い出したことがある。
そういえば私は、「まあ、いいか」を知るずっと前から、自分なりに心を守る方法を使っていた。
20年近く接客をしていた頃の話だ。

接客をしていると、ときには一方的に強い言葉をぶつけられることがある。
もちろん、お客様の言葉には向き合う。
でも、そのたびに真正面から受け止めていたら、こちらの心が持たない。
サンドバッグにも定休日がほしい。

だから私は、頭の中で勝手にストーリーを作っていた。
「きっとこの人は家族とうまくいってないんだ。」
「家では話し相手もいないんだ。」
「親戚とも疎遠なんだ。」
「ずっとうっぷんをため込んできて、今日はここで爆発させに来たんだ。」

……もちろん全部、私の妄想である。裏付けは何ひとつない。
気づけば、何十人ものお客様を天涯孤独にしていた。会ったこともない親戚まで疎遠にした。
でも、そう思うことで、自分の心は少しだけ守られていた。

ある日、強い口調のお客様の対応をして落ち込んでいたスタッフに、その話をした。
「全部、自分のせいだと思わなくていいよ。」
「何か事情があったのかもしれないから。」
するとスタッフが言った。
「じゃあ、このお客様、今日の朝財布なくしたんですね。」
別のスタッフも続く。
「しかもお気に入りの財布ですよ。」
「全財産も入ってましたね。」
私より、スタッフのほうが想像力は豊かだった。
気づけば、お客様の人生はどんどん大変なことになっていた。数分で全財産を失う人、多すぎる。
もちろん、それも全部私たちの妄想である。
でも、その妄想のおかげで、お客様の怒りを全部自分たちで抱え込まずに済んだ。

もう一つ、この頃から使っている考え方がある。
「もし今、3億円当たっていたら」である。桁が大きいのは、気分の問題だと思う。
もともとは、自分のイライラを抑えるためのものだった。
イライラした瞬間、「今日、宝くじで3億円当たってたら、こんなことで怒ってないよな」と考える。
すると、大抵のことはどうでもよくなった。
ちなみに宝くじは買っていない。

これは、お客様にも当てはまるんじゃないかと思うようになった。
たまたま接客業をしていたので、目の前のお客様にも当てはめて考えるようになった。

それを、落ち込んでいるスタッフにも伝えていた。
「そもそもお客さん、今朝3億円当たってたら、あんな言い方しないから。
その人の事情も込みの言葉だから、気にしなくていいよ。」

今でも、店員さんに文句を言いそうになった時、ふと自分に聞く。
「今、3億円当たっていたら、同じようにイライラするかな。」
たいてい、答えは「しない」だ。当たったこともないのに、なぜか分かる。

前回の記事で、私自身も時間に余裕がなくて宅配業者さんにイライラしてしまったことを書いた。
余裕がないと、誰でも似たようなことをする。お客様だって、例外ではない。

だから私は、お客様の怒りを全部「自分に向けられたもの」だとは思わないようにしていた。
おかげで20年、あまり病まずに済んだ。妄想力、馬鹿にできない。
履歴書の特技欄に書けばよかった。

【ついでに気づいたこと】
・お客様の強い言葉は、頭の中で勝手にストーリーを作って受け止めていた。天涯孤独にされたお客様、数知れず。
・スタッフに話したら、想像力は私より豊かだった。財布どころか全財産まで持っていかれていた。
・「もし今日、宝くじが当たっていたら、この言い方をしただろうか」と考えると、たいてい答えは「しなかった」だった。

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