前回の記事で、産業医から「たまにはカフェや図書館で本を読んでみるのもいいですよ」と勧められた話を書いた。
理由は、家とは違い、人がいる環境でも集中できるか試してみるためだという。
復職すれば、一日中一人で過ごすことはリモート勤務以外はない。
人の話し声が聞こえたり、人が行き来したりする中でも、自分のやることに集中できるか。
そういう環境に少しずつ慣れていくことも、復職に向けたリハビリの一つらしい。
図書館はあまり好きではない。
そこで私が選んだのは、コメダ珈琲だった。
コメダは、居心地の良さを大切にして、ゆっくり過ごしてもらうことでファンを増やしていくお店だと聞いたことがある。
「長居するなら、ここでしょう。」
そう思って店に入った。
席を探していたら、窓際で本を読んでいるマダムがいた。
なんとなく、自分も近くの席を選んだ。
この時はまだ、そのマダムが二時間後の私の心の支えになるとは思ってもいなかった。
せっかくなのでモーニングを注文する。
コメダのモーニングは、飲み物を頼むとパンが付いてくる。
山食パンのトーストかローブパンを選び、さらに、ゆで玉子、たまごペースト、おぐらあんの中から一つ選べる。トーストにはバターかいちごジャムも付けられる。
私はタンパク質を取りたかったので、ゆで玉子にした。
店員さんの声がよく通るので、周りの注文も自然と耳に入ってくる。
「おぐらあんで。」が連続で聞こえてきて、やっぱりコメダはあんこが強い。
もし私が店員だったら、「本日のあんこ率」を勝手に予想していたと思う。
今日はたぶん九割五分。だって私以外、全員あんこだった。
バターとジャム、聞き方一つでお客様への当たりを変えている店員さんもいた。
あ、この人できる。
元接客業の職業病である。とっくに辞めたはずなのに、この癖だけは一向に治らない。
そんな観察をしながら、本を読み始めた。
思った以上に集中できた。
ところが、一時間ほどたった頃から、本とは別のことが気になり始める。
「私、長居しすぎじゃない?」
隣の席も、マダムとの間の席も、気づけば一度ずつ客が入れ替わっていた。
そのたびに、自分がずいぶん長居していることを思い出す。
慌ててマダムを確認する。まだいた。安心した。
今日は最初から二時間いると決めて来ている。
だから、マダムがいる限りは大丈夫。
……そう思っていた。
ところが、一時間半ほどたった頃。
マダムが席を立った。
え、帰るの?
一瞬、本気で悲しくなった。今日初めて会った人なのに。
まだ三十分ある。
私はこのあと三十分、「この店で一番長くいる人」という謎のプレッシャーと戦うことになった。
もちろん、そんなランキングは存在しない。
私の頭の中だけで開催されていた。
それでも、予定どおり二時間過ごした。
小説は面白かった。
本当は、小説を一時間、ジェネラリスト検定の参考書を一時間読むつもりだった。
コメダは、本当に長居しやすいお店だった。
店員さんに急かされることもなければ、嫌な顔をされることもない。
それなのに、勝手に自分だけがそわそわしていた。
ジェネラリスト検定の本は一ページも開かなかった。
でも、二時間そこにいることはできた。
今日のリハビリは、それで十分だった。
【ついでに気づいたこと】
・コメダはあんこが強い。自分が店員だったら「本日のあんこ率」を勝手に予想しそうだと思った。
・接客の言い回しを客によって変えている店員さんがいて、つい「あ、この人できる」と思ってしまった。昔の職業病らしい。
・誰も見ていないのに、自分だけが「長居しすぎじゃないか」とそわそわしていた。


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