先延ばしの持病持ちが、エアコンクリーニングを頼むまで

4月。
彼氏が突然、「家の中をプロにキレイにしてもらいたい。」と言い出した。
確かに、住み始めてから一度も大掛かりな掃除はしていない。
いい機会かもしれない。
業者探しは私の担当になった。

理由は単純。
今の私には、時間がある。
療養中の身で、他に理由はない。

普段、仕事をしている時なら、「これ調べておいて」と言われると、内心「え、なんで私?」とムッとしていた。
今は、「はい、任せて」しか出てこない。
暇になると、私の心はやたら広くなるらしい。

お願いしたのは、エアコンだけではない。
お風呂、トイレ、レンジフード。
掃除にも、まとめ買い根性が発動するらしい。
せっかくならまとめてお願いしよう、ということになった。

そして5月。
最初に始まったのが、リビングのエアコンクリーニングだった。
作業が終わると、業者さんがタンクを見せてくれた。
「これだけ汚れていました。」
中には、どす黒い水。
かなり衝撃だった。
なんでもキッチンが近くにあるエアコンは、油を吸いカビが生えやすいとのことだった。

その場で、「うちもやろうかな。」と言った。
すると彼氏は、「賃貸だから、やらなくていいんじゃない?」と言った。

ところが、一か月ほどすると、また気になり始めた。
住むのは私だ。
やっぱりやろうかな。
そう彼氏に話すと、今度は、「やったほうがいいよ。」と言う。

……この前と違う。

ちょうどその頃、管理会社からも「エアコンクリーニング」の案内が届いたが、面倒で申し込まなかった。
「今日はいいか。」「また今度でいいか。」
その”また今度”は、なかなか今日にならない。

それでも、あの黒い水だけは頭から離れなかった。
5月に一度見ただけなのに、7月になっても、あのバケツの中身がふと頭をよぎる。

思えば、メルカリを始めた時もそうだった。
やろうと思ってから、実際にやるまで、いつも謎の距離がある。
私には「先延ばしの持病」がある。
ここまでくると、もう特技と呼んでもいい気がしてきた。

そうこうしているうちに、7月になった。
今年は、久しぶりに扇風機を出した。
去年も一昨年も出していないのに。
エアコンをつけたくなかったからだ。
まずは扇風機で頑張ろう。
そう思っていた。

でも、暑かった。

扇風機よ、よく頑張った。
だが、これは初めから勝ち目のない戦いだった。

エアコンのスイッチを入れた。
そしてようやく重い腰を上げて、エアコンクリーニングを申し込んだ。

返事はすぐに来た。
予約できるのは9月。
「そんなには待てません、、」と伝えると、

「残暑もありますから。」

残暑って。
今の話をしているのだが。

なので彼氏の家でお願いした業者さんに連絡してみると、「来週なら伺えます。」
こんなに違うものなのか。
もちろん、その場でお願いした。

クリーニング当日。
高圧洗浄が始まる。
ホースから流れてきたのは、もちろん透明な水ではなかった。
黒い。
しかも、滝のように流れてくる。

「うわ……。」

前回は、終わった後の黒い水を見たが、
今回は、その黒い水が流れ出る瞬間を見てしまった。
「ああ、これを吸っていたんだ。」
そう思った。

やっぱりプロはすごい。

クリーニングが終わって、風が劇的に変わったかは正直分からない。
でも、一つだけ変わったことがある。
深呼吸である。
掃除する前は、カビていると思うと、どこか深呼吸をためらっていた。
今は違う。
気兼ねなく空気を吸える。

彼氏の意見は、途中でくるっと変わった。
でも結局、彼の言葉も、管理会社の案内も、私を動かせなかった。
動かしたのは、あの黒い水だった。

【ついでに気づいたこと】
・時間があると、頼まれごとに全然イラつかなくなるらしい。療養中ならではの特典なのかもしれない。
・先延ばし癖は、メルカリの時とまったく同じパターンだった。持病というより、特技と言っていいのかもしれない。
・結局自分を動かしたのは、言葉による説明ではなく、目の前で見た黒い水だったらしい。

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